夏を愛する言葉 若山牧水2010/07/21 22:01:58

 夏と旅とがよく結び付けられて稱えらるゝ様になったが、私は夏の旅は嫌ひである。山の上とか高原とか湖邊海岸といふ所にずっと住み着いて暑い間を送るのならばいゝが、普通の旅行では、あの混雑する汽車と宿屋とのことをおもふと、おもふだに汗が流るゝ。

 夏は浴衣一枚で部屋に籠るが一番いゝ様である。静座、仰臥、とりどりにいゝ。ただ専ら静かなるを旨とする。食が減り、體重も減る様になると自づと瞳が冴えて来る様で、うれしい。

 夏深し いよいよ痩せて わが好む 面にしわれの 近づけよかし